液封エンジンマウント

2015.03.15 Hydraulic Engine Mount

液封エンジンマウント

物理的性質

液封エンジンマウントは、自動車や建設機械産業で幅広く利用されており、従来のゴムマウントよりも効果的なものです。

エンジンマウントの主な機能は、エンジンのサポート、および車体からエンジン振動の分離です。エンジン振動の主な原因は以下2つです。

1.低周波(1~50Hz)、高振幅(1~2mm)の衝撃外力からの振動。衝撃外力は、自動車の急発進や急停車や、道路の起伏上の走行により発生します。

2.高周波(30-250Hz)低振幅(0.005-0.5mm)不安定なエンジン力からの振動。不安定なエンジン力は、点火パルスや、回転体からの質量不均衡や、往復機関部品より発生します。(例えば、ピストン内、コネクティングロッド、クランク等)

不安定なエンジン力から車体を分離するため、マウントは柔らかくそして高周波域で減衰させなくてはなりません。

しかし、衝撃外力ではエンジンがバウンドすることを防止するために、マウントは堅く、低周波域では高い減衰をしなくてはなりません。もし、エンジンが衝撃により大きい振幅でバウンドした場合、エンジンの部品や周りの車体は壊れるかもしれません。

そのために、この矛盾した要求を満たすため、エンジンマウントは周波数に依存する、動的な剛性でなくてはなりません。

理想的なマウントの動的な剛性は、図1に示します。

通常、低周波振動で大きく振幅し、そして高周波振動では小さく振幅し、振幅依存性のマウントとして使われます。

図1:理想的なマウントの理想の動的剛性

液封エンジンマウントは、図1に示す理想的な剛性に近づけるため、高度な調整がされています。これらのマウントは、該当する範囲の振幅と周波数(0.005~2mm と 1~250Hz)で動的剛性はほとんど変わらない従来のゴムマウントよりも効果的です。

液封エンジンマウントの最適な設計は、流体-構造の高度な非線形的動きを的確にとらえる、詳細な数値解析が要求されます

数値解析モデル

液封エンジンマウントの数値解析モデルは、モデル化が困難です。モデルは、部品間の接触とゴムにおける粘弾性効果で構成しなくてはなりません。しかし、最大の課題は、マウント内に同封された流体と構造をフルカップリングした流体-構造の相互作用(FSI)方程式を解決することです。直接(Direct)法のFSIカップリングを使用する必要があります。反復(Iterative)法のFSIカップリングでは、結果を得ることは非常に難しいです。

ADINAは液封エンジンマウントの解析に幅広く利用されています。直接法と反復法のFSIカップリング解析法で独特な手法を持つADINAは、液封マウント唯一の実行可能な解析プログラムです。

このショーケースでは、液封エンジンマウントを分析するため、直接FSIカップリング解析法が必要な理由を中心に解説します。 ADINAを使い解析されたより複雑な液封エンジンマウントの例はこちらを参照してください。

図2にはよく考慮されたエンジンマウントの概略図を示します。解析結果の動画はトップに示します。ショーケースでは、FSIカップリング法において、Ogdenの超弾性材料モデルを使い、粘弾性効果は無しで、部分間接触がまったく無しと仮定しています。

図2:液封エンジンマウントの概略図

解析において、まず予荷重として液封エンジンマウントにエンジンの重み荷重を負荷します。その後、エンジン振動のため、SIN波の強制変位で加振します。

直接法のFSIカップリング解析法

直接法については、参考文献を参照ください。流体と構造の方程式はNewton-Raphson法を使い1つの完全にカップリングされたマトリクスとして解析されます。結果として、構造の変形の効果が流体に直ぐに現れ、流体の効果も直ぐに構造に現れます。

直接法のFSIカップリング解析法は、変形する境界の間のほとんどの非圧縮性流体のFSI解析に必要です。流れがほぼ非圧縮性のため、流体部の体積を保持するために、構造部の境界の変形はもう一方の境界の変形とバランスをとらなくてはなりません。流体部の体積がどんな小さい変更でも非常に大きい圧力が生じます。

直接法のFSIカップリング解析法を液封エンジンマウント問題に使う場合、フルカップリングされた流体と構造の方程式は簡単に収束します。

反復FSIカップリング解析法

反復法のFSIカップリング解析法において、流体と構造体の方程式は個別に解かれますが、連続しており、いつもカップリングされ提供された最新の情報を使います。プログラムは、解析の変数が、すべて流体と構造の方程式を満たすまで繰返します。

反復法のFSIカップリング解析法が液封エンジンマウント問題に使われた場合、以下のメッセージで発散する場合があります。

*** WARNING *** CODE ADF6033: Absolute residual 1.65E+15 of pressure is too large

収束の難しさを理解するため、洞察し、それぞれのFSI反復毎の解析を考慮します。

まずFSI反復において、圧力分布を計算するため、プログラムは流体の方程式から解かれます。(構造体は無変形状態と仮定してます。)流体境界は構造体によって閉じられているため、圧力解析は0です。

次に、プログラムはFSI境界上の流体の圧力を使って構造方程式を解きます。結果としては、強制変位でゴムマウントの上部の室だけが変形させ、図3に示すように封入している、流体体積が大きく減少します。

図3:最初のFSI反復計算における、ゴムマウントの変形状態。

2回目のFSI反復計算では、最初のFSI反復計算からの変形が流体境界に更新され使われます。そして、流体方程式はこの更新した領域で解かれます。閉じた体積の大きな減少と流体がほぼ非圧縮状態により、圧力は非常に大きく(1e15以上)なり、プログラムは上記のエラーメッセージような高圧力により異常終了します。

反復法のFSIカップリング解析法の持つ不安定さのため、明らかです。原因は、構造方程式は構造変形による流体圧力の変化とみなさないためです。流体圧力はいつも1つ前のFSI反復計算の構造の形態をベースにします。TimeStepサイズの減少か、小さいrelaxation factorを使ってもこの不安定さは乗り越えられないでしょう。液封流体の体積弾性率の大幅な減少はかなり作動液の大量の率を減らすことは役立つでしょう、しかし、これでは物理的性質が変わってしまいます。

直接(Direct)法のFSIカップリング解析法の場合この不安定さの影響を受けません。そして、物理的性質を変えることなく、液封エンジンマウント問題の解を得ることができます。

結論

このショーケースでは、ADINA-FSIの提供する、FSI問題の広範囲に解析するための2つの異なる解法を紹介します。直接FSIカップリング法と反復FSIカップリング法。

直接FSIカップリング法は、変形する境界間に封入されら流体や、流体に近くの構造体が非常に柔軟な場合や、非常に圧縮しやすい流体の近くの補強構造体などの難しいFSI問題を解決する時に、ロバスト性を提供します。

参考文献

Bathe, K.J., Finite Element Procedures, 2nd Ed., Cambridge, MA: Klaus-Jurgen Bathe, 2014(available at amazon.com)

キーワード

液封エンジンマウント、封入流体、動的剛性、位相変動、粘弾性、直接FSIカップリング法、反復FSIカップリング法