ピストンの吸気リード弁

2014.10.30 Piston with Suction Reed Valve

ピストンの吸気リード弁

コンプレッサーや、その他の往復機械における流体と構造の相互作用解析は、接触と複雑な動的境界条件を含みます。 これらの問題の正確な解析には、「非線形の構造解析」と「ナビエ・ストークス流体解析」の間のカップリングを説明できる強固なアルゴリズムが必要です。ADINA-FSIは、複雑な流体と構造の相互作用問題のモデル化を確かな信頼性と適応性でご提供します。

このページで、接触条件とGAP条件とFSIで完全にカップリングされた、ピストンの吸気リード弁の事例を紹介します。ADINAのGLUEメッシュとLeader-Follower機能もまた使った事例です。ADINAのポテンシャルベース要素と分析的表現からの考察について、いくつかの興味深い結果について考えます。

以下図1に示す、簡易化したピストンのリードバルブ形状を考えます。最上部の面は往復式ピストンに相当します。図1の点線の矢印方向に動きます。この構造において、流体は吸気口とピストンチャンバー間を自由に流れます。弁が弁座(valve seat)上にフラットになり、閉じた時、それにより流体の流れは止まります。ピストンは時間依存の上昇運動で指定しています。

図1:ピストンのリード弁の概略図

図2でFSIモデルのいくつかの重要な機構を示します。特に、薄い流体GAP(下図に示されている、誇張表記された部分)は、弁の直下 に置かれます。流体は、低速の圧縮性(low speed compressible)でモデル化され、乱流(turbulent K-ε)定式化です。流体領域は、下図に示す、1つの吸入口(Inlet)領域に3つのLayerが追加された、計4つのサブ領域で表されます。

図2:流体領域の分解図と側面図。layer1と2の板厚は誇張表記しています。

ソリッドメッシュ

リード弁は、2種類の要素グループに分けられてメッシュ化されています。緑色の領域は27節点の高次ソリッド要素でメッシュ作成しています。そして、赤色の領域は節点数の少ない8節点の低次ソリッド要素を使っています。2つの要素間はGLUEメッシュを使い、結合されています。(下図の青線部)

図3:GLUEメッシュにより2種類の要素グループを結合したソリッド要素

接触条件

問題は、弁座(valve seat)部とリード弁の下側の間の接触です。弁座(valve seat)は剛体面と仮定しTARGETの接触面です。

図4:接触面は構造モデルとして使われます。注:弁座(valve seat)上の接触面の穴は、吸入口の水路に相当します。

接触はムラのある接触を防ぐため、のCompliance Factorを1e-4で使用します。接触オフセットは、弁と弁座の間が閉じている時、薄い流体層(Layer1)が圧縮されて体積が0になるのを防ぐために適用されます。

図5:リード弁と便座間の空間のモデリング

流体条件

このモデルmoving wallの境界条件をピストンの移動のために使用します。FSI境界条件は弁表面全体に使用します。そして、GAP境界条件を使用します。図6参照。注:GAP境界条件の位置は弁直下の薄い流体領域になります。ADINAのGAP境界条件は、2つの流体領域間の「接続/非接続」に使われます。流体はGAP領域があるしきい値を超えたとき、GAP境界を流れます。(例:弁の開き始め)そして、GAP領域が別のしきい値より下まわったとき、流れは止まります。弁の開閉において、GAP境界条件の開閉の可否が流体に適切に働きます。

初期条件は吸入口とピストンチャンバーで定義されます。吸入口には初期圧力0.113MPa、チャンバーには1.47MPaがそれぞれにかかります。

図6:GAP、FSI、moving wall 境界条件の位置

leader-follower オプションでのALE moving mesh

leader-follower機能は、移動するメッシュ品質が悪くならないように助けるオプションとして有効です。この機能は、境界線の2つの端点を使い、メッシュの境界線を移動する境界条件です。このモデルでは、図7に示す、弁の開閉により、流体メッシュの要素品質が悪くならない ようにコントロールするため、leader-followerペアを2つの「リング」に定義します。

図7:leader-followerペアの位置

図8に弁の開閉によるALE moving meshのアニメーションを示します。

図8:弁の開閉によるALE moving mesh

結果

ADINA FSIの予測では、ピストン置換とともに、弁が3回開き、ピストンチャンバーの上面付近の圧力約0.113MPaで激しく変動します。図9と図10を参照してください。注目点は、ピストンがほぼ2回、最大高さに達したことです。弁が開き、その後2回目の頂点の最大変位はより低くなります。

図9:横軸時間-縦軸弁先端の変位
図10:シリンダーの上面付近の圧力;0.113MPa周りの変動の詳細は、はめ込み図参照

検証(Validation)

深刻な問題の複雑さにより、モデルの検証はより重要となります。私たちは予測された結果が物理的な意味をなすよう保証しようとします。たとえば、次のような質問をするかもしれません。

1.なぜ、弁は複数回数の開閉をしたのか?

2.弁が開いた後、なぜピストンチャンバーの圧力は時々吸入口の圧力を上回るのですか?

上記影響が観測できる理由として、ピストン運動の周期は、システムの固有振動数と同位です。もしピストン運動が固有振動数に比べて遅い場合、弁の複数の開閉やチャンバーの圧力変動は起きないでしょう。

手計算でシステムの固有周波数を評価できます。それによりFSI結果の正当性を確認できます。片持ち梁振動の基本周期(質量の影響は無視します。)次式で与えられます。

Eはヤング率、ρは質量密度、Lは長さ、hは片持ち梁の板厚です。上記の近似値を使用して、~5msの周期を得ます。弁の動きの周期はADINA-FSIでは~6msを予測します。

ピストンチャンバー内でなぜ圧力変動するかの理解をするために、ヘルムホルツ共鳴器のようなシステムを考えます。ヘルムホルツ共鳴器の振動周期の基本式は、次式となります。

aは、流体を通過する圧力波の速度です。Vはピストンチャンバーの体積です。cは次式より与えられる、吸入口の伝導率です。

Aは吸入口の面積、Lは吸入口の長さです。上記近似値を使い、弁の開く時を仮定し、~1msの周期を得ます。ピストンのチャンバー圧力の周期は、ADINA-FSIにより予測される変動は、2msです。図10を参照してください。共振による変動速度は、流体を通る圧縮波の速度よりはるかに小さい事に注意します。

これらの手計算は、ADINA-FSIの結果を正当性を確認し、その問題へ物理的洞察を与えます。特に、吸入口長さが、吸入口の伝導率に影響すると観察され、そしてそれにより、ピストンチャンバー圧力は変動します。この理由により、吸入口長さをモデル化するときに、短くしない事が重要です。

最終的に、システムの固有値よりよい近似解を、ADINAのポテンシャル要素を使用して得ることができました。この解析では、流体-構造システムの結合した固有値が、決まります。結合したシステムの振動の初期周期は4.9msです。(流体なしの最初の構造物の周期に近いです。) そして、2回目の振動周期は1.6msです。(弁を含む、ヘルムホルツ共鳴器に相当します。)

結論

このショーケースにて、いくつかのADINA-FSI(接触問題、GAP、moving wall条件、GLUEメッシュ機能を含めた)の強力な機能を紹介しました。これらは、また、カップリングした挙動から現れる、複雑な結果について説明を助け、ADINAの能力を実証します。

キーワード

レシプロ形コンプレッサー、ピストンの吸気リード弁、ヘルムホルツ共鳴器、leader-follower、接触オフセット、GAP境界条件