冠状動脈内の非定常血流

2013.1.15 Unsteady Blood Flow in a Coronary Artery

冠状動脈性心疾患は、死亡の主要な原因となっています。 この疾患は、冠状動脈内の動脈硬化(アテローム性動脈硬化症)、つまり、粥腫(プラーク)の蓄積によって動脈壁が 厚くなる状態が特徴です。 場合によっては、プラークは、血流を悪くするか止めることになり、 凝血によって破裂を引き起こすことがあります。

冠状動脈疾患の研究によって、動脈の壁面せん断応力はアテローム性プラークの破裂において中心的役割を果たしていることが判明しました。 このせん断応力と動脈の形状との相互関係を調査するために、多くの研究がなされています。

今回のショーケースでは、血流が心拍中で動脈を変形させ、変形は血流に影響を与えるために、 動脈壁の追従が、実質的にせん断応力に影響を与えていることを示す研究者チームの研究 (文献を参照)をお見せします。ADINA FSIが、本研究で用いられました。

図1はCTスキャンから再現された左冠状動脈の形状を示します。 図2はADINAモデルを使った流体と固体のメッシュを示します。

図1 60歳の健康な患者のCTスキャンから再現された左冠状動脈
図2 ADINAモデルを使った流体と固体のメッシュ

流体メッシュは約400,000要素、固体メッシュは約30,000要素からなります。 二つのシミュレーションが行われ、 一つは柔軟壁(FSIを使用)、もう一つは剛性壁(CFDのみを使用)で行われました。 FSIとCFDのシミュレー ションの両方に境界条件として生体と同一の血流速度と圧力波形を与えました。

上の動画はFSI解析(変形形状をプロットした)から得られた心拍中の平均化された壁面せん断応力(変形した形状で描画)を示します。 当然、冠状動脈の変形は非常に小さいが、それでもせん断応力に影響を及ぼします。 図3はFSIとCFDの条件に対する最大の壁せん断応力の時間変化の比較を示す一方で、 図4は、心拍中の異なる時刻における瞬間のせん断応力を比較しています。

図3 FSIとCFDシミュレーションの最大の壁面せん断応力の時間変動

図4 二つの時刻でのFSIとCFDの条件に関する壁面せん断応力(単位 はPa)

案の定、図3での比較はFSIとCFDの方法を使っているときの結果の違いを示します。 特にFSI条件のモデル化のとき、最大のせん断応力は約10%減少します。 また、図4はせん断応力分布がFSIモデルで大きく異なることを示します。 そのような違いによって、動脈の変形がその壁面せん断応力の評価において重要な役割を果たすことを裏付けます。

この研究は、科学者やエンジニアが生体学の研究における複雑な生理現象の 貴重な洞察や医療機器の設計を手助けするADINAの利用法の一例です。

ADINA FSIのさらなる応用については、こちらを参照ください。

参照

  1. M. Malvè, A. García, J. Ohayon and M.A. Martínez, "Unsteady blood flow and mass transfer of a human left coronary artery bifurcation: FSI vs. CFD", International Communications in Heat and Mass Transfer 39 (2012) 745–751.

キーワード

非定常血流、冠状動脈、FSI、CFD、動脈の壁面せん断応力、血行力学、患者のCTスキャン、生理的な圧力の波形

協賛

M. Malvè, A. García, and M.A. Martínez (Universidad de Zaragoza, Spain) and J. Ohayon (Laboratory TIMC/DyCTiM, Grenoble, France and University of Savoie, France)